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Why We Play vol.13:佐野健二【後編】

音楽と人、そして楽器。さまざまな表現手段の中から、なぜベースを選んだのか? そんな素朴な疑問にフォーカスを当て、プレイヤーの内面に深く迫る連載企画「Why We Play」。安室奈美恵やEXILEを始め、国内有数の大舞台を手がける中で、ミュージックディレクターとして日本国内のミュージシャンをフックアップする佐野健二。インタビュー後編では、フェンダーに対する思いや自身のバンド活動、そして佐野自身の未来について語ってもらった

Why We Play
オールドスクールの人たちにとって “Electric Bass=Fender”なんです。
 

―  楽器に対して求めることは?

佐野健二(以下:佐野) “鳴り”ですね。ピックアップなど、パーツによって音は変わるじゃないですか。だけど、まずはベーシックな部分で、弦がどれだけ鳴っているかとか、ズッシリくるかっていうことをチェックします。ルシアーの方に楽器を作ってもらう時も“いやいや、ピックアップのコイルを何回巻くとか、全然わからないですよ”っていう。“いいやつを使ってください”としか言えない(笑)。

―  その中で、フェンダーの楽器はひとつの基準になっている?

佐野 僕の中では大きいですよ。初めて憧れて買ったベースがPrecision Bassだったし、Jazz Bassもそのあとに買ったんですけど、当時住んでいた寮で盗まれたんですよね。一番痛いのは、親父にねだって買ってもらった、60年代のTelecasterを寮でパクられちゃったこと。加えて、初めて買ったPrecision Bassや、カラパナで使っていたPJスタイルのPrecision Bassも、当時のローディが勝手に売っちゃった…最悪ですよね(笑)。

―  そんなことがあるんですね!

佐野 ある日、ライヴ会場に行ったら僕の機材がないんですよ。その時は急遽、楽器屋さんに機材を借りてGIGは終えて。何週間後かに、ノースショアでハワイアンのイベントがあったんです。そこにおばあちゃんバンドが出演していたんですけど、そのおばあちゃんが僕のベースとアンプを使っているんですよ(笑)。その現場をやっていたサウンドマンから連絡が来て“機材にKenji Sanoって書いてあるけど貸してるの?”って…長くやっているとね、いろんな話がありますよ(笑)。

―  Precision Bassに魅力を感じたわけは?

佐野 やはり、R&Bを聴いていたからですね。チャック・レイニーと話したりする時にも話題になるし、フェンダーってすごいんですよ、みなさん(笑)。以前、小さなライヴハウスでハンク・ジョーンズお会いしたんですね。そこで1曲やらないか?っていう流れになったときに、そのバンドのベーシストから“You play the fender?”って聞かれたんです。決して“You play Electric Bass”とは言わない。オールドスクールの人たちにとって“Electric Bass=Fender”なんです。だから、僕の中でもPrecision BassやJazz Bassは特別な意味があるんですよ。中でもジェイムス・ジェマーソンなどを聴いていたからPrecision Bassは好きですね。不思議なことにアップライトベース奏者の楽器クレジットは記されないのに、エレクトリックベースはフェンダーと表記される…すごいことですよ。今も、ロスの自宅にはPrecision Bass、Jazz BassとTelecasterそれぞれ1本ずつあります。それらは、温度管理も含めてケアしていますね。

―  そんな中、今後の音楽との関わり方、もしくはベースとの関わり方について聞かせてください。

佐野 ベースはずっと弾いていると思います。自分の未来については、“僕の笑顔で元気になりました”とか“ステージで立っている姿を見るのが好きです”って言ってくれる人がいる限りは、続けたいって思い始めているんですよ。ヘンなエゴは持たないようにして、現役は続けていくつもりですね。一方で、若い世代のアーティストたちのうしろで弾くのもいいかもしれないけど、僕はそうじゃなくて、そのアーティストと同じような世代のミュージシャンがもっと出てきてほしいんですよね。そのミュージシャンのためにステージを作ってあげたいし、レールを敷いてあげたい。ビッグアーティストのバックを務めるっていうのは、ほんのひと握りじゃないですか。それをもっと広げたいですよね。僕は、このアーティストにはこういうメンバーがいいなっていう、若い人やベテランも含めてミュージシャンを集めてバンドを作るっていうことを毎年監修しているのですが、それに生きがいを感じていますね。時間がなさすぎてフラフラになるんですけど、僕はそれが楽しいんですよ。

―  現在、カラパナのメンバーとしても活動していますが、ここでの表現はミュージックディレクターの現場とは異なりますか?

佐野 違いますね。バンド活動は、やはり僕のルーツなんですよね。しかも、昔だったら時にはケンカしてぶつかり合うこともありましたが、今は全員60歳くらいのオジサンたちがワイワイやっている感じで(笑)。1日2ステージを3日間やったりするんですよね。先日は6日間で10ショウもやったし。今だに音楽的マインドのふるさとなので、逆に疲れてヘロヘロになっていても楽しいんですよね。マッキー(フェアリー/バンドの創始者でありリードシンガー)が死んだ時はカラパナはもう辞めよう、やっても意味がないっていうことで1年辞めたんですけど…その後、大きなイベントで一度だけやってみたら、反響がものすごかったんです。会場にいるみんなは泣いているし、僕らも泣いてるし、そこからやってみようって。今はもう安定していますね。今はファンも3世代でライヴに来てくれますからね。若い子が曲を口ずさんでくれている姿を見ると、本当に嬉しいです。

―  そこにあるのは“良い曲”ですよね。

佐野 まさにそうです。“曲力”ですよ。グッドミュージックって、その時代に一瞬にして戻れるじゃないですか。匂いと同じように、“この当時、こういうことをやっていたな”って感じることができる。それぐらい音楽ってすごいものなので、それに携わることができて幸せだし、逆に使命感もあるんですよ。俺がこれをやっていかなきゃいけないんだっていう気持ちなんですよね。ファンの人たちに幸せを与えることが僕にとっての幸せで。つまりすべてが幸せになれるんですよ。僕がベースを弾くことでみんなが喜ぶ、それが一番大事です。

―  そういった活動もある中で、若いミュージシャンに伝えたいことは?

佐野 “どうしてキャプテンっていうニックネームで呼ばれているんですか?”ってよく聞かれるんですけど、“キャプテン業”ってそういうことなんですよね。エゴなしでプライドを持ち、そして理解はするけど妥協はしない、それをキープしながら全体像を見るんです。どちらも紙一重だから難しいんですけどね。でも、それを一生懸命やる。音楽が好きだったらできると思うんですよ。俺ができたんだから、みんなもできますよ(笑)。みんながみんな、僕みたいにならなくていいですけど、何をやったらいいかを学んでほしい。

―  佐野さんはグローバルに活躍されていますが、特に日本にいるプレイヤーたちをフックアップしようとしているように見えます。

佐野 おっしゃるように、海外のアーティストを連れてくることはいくらでもできますけど、日本にも素晴らしいミュージシャンはたくさんいますから。ただ、角松敏生と出くわした頃、それをきっかけに今剛や浅野“ブッチャー”祥之、あとは村上“ポンタ”秀一さんや、いろんな日本のミュージシャンたちと知り合って。その時に、僕が間に入ってコラボしたほうがいいなって思ったんですよね。だから、要所要所でアメリカから連れて来るんですよ。そうしたら、日本のミュージシャンにとってもプラスになると思うんですよね。そして、海外から来たミュージシャンも、“みんなすごいじゃん!”って感じで帰ってくれるので、すごく良い関係になるんです。今はEXILE ATSUSHIの現場でもそういうことをやっていますし、それがお互いのためになるんです。そうやって、いろんなものをリンクさせることを、現役を続けながらやっていきたいですね。

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American Elite Jazz Bass® V

Why We Play

第4世代ノイズレスピックアップや18V駆動のプリアンプを搭載することで、ヴィンテージスタイルのサウンドをノイズレスで実現。9.5~14インチのコンパウンドラジアス指板を採用し、モダンなプレイにも対応する。ネックはモダンCシェイプからネックヒールにかけてDシェイプに変化する、コンパウンドシェイプとなる。
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PROFILE


佐野健二
55年8月6日生まれ、兵庫県出身。5歳よりアメリカンスクールに通ったのち、アメリカの大学に進学するために渡米。83年にカラパナへ加入。その翌年には初来日を果たす。88年、角松敏生と共同で中山美穂のアルバム「CATCH THE NINE」のプロデュースを手掛ける。以降、日本のアーティストのプロデュースを手がけるようになる。94年、ジャッキー・グラハムの音源制作に携わる。ジェイ・グレイドンの日本とヨーロッパのツアーに参加。96年よりglobe、安室奈美恵のミュージックディレクターを務める。約11年に渡り安室奈美恵のツアーのベーシスト兼バンドマスターとして活躍。01年から1年は、矢沢永吉のツアーにベーシスト兼バンドマスターとして参加。04年にEXILEと出会い、ミュージックディレクターとしてEXILEのレコーディングやライヴに深く関わる。現在もEXILE ATSUSHIのサポートや、若手アーティストのミュージックディレクターとして手腕を振るっている。
› Website:https://avex.jp/kenji-sano/