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椎名林檎(生)林檎博’18 -不惑の余裕-レポート

2018年11月22日(木)さいたまスーパーアリーナにて行われた「椎名林檎(生)林檎博’18 -不惑の余裕-」の模様をレポート。

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椎名林檎のデビュー20周年を記念した、全国4か所8公演のアリーナツアー『(生)林檎博’18 -不惑の余裕-』。11月22日(木)24日(土)25日(日)さいたまスーパーアリーナで行われた公演の初日にあたる22日の模様をお届けする。 巨大な宇宙船が爆音のシンフォニーを奏で、人間とコミュニケーションを図ろうとするかのような、映画「未知との遭遇」のあのクライマックスシーンを彷彿とさせるオープニングを経て、「本能」からライヴは幕を開けた。バンドメンバーのみどりん(Dr)、鳥越啓介(Ba)、ヒイズミマサユ機(Kb)、名越由貴夫(Gt)、さらにステージ前方に設けられたオケピには揃いの白衣に身を包んだ総勢27名のオーケストラ。彼らThe Mighty Galactic Empire(銀河帝国軍楽団)の指揮を取るのは斎藤ネコだ。 何と、初っ端からゲスト、ブラックスーツをクールに着こなしたRHYMESTERのMummy-Dが忽然とステージに登場。ヒップホップにアレンジされた「本能」のトラックで、彼がラップを始めると会場は一斉に総立ちに。そして曲中、総スパンコールのガウンに身を包み、パールの施された王冠を被った椎名林檎が満を持して登場すると、観客からどっと歓声が上がる。

続いて演奏されたのは、2009年リリースのアルバム「三文ゴシップ」に収録された「流行」。客演にMummy-Dを迎えてレコーディングされたアップテンポのジャズナンバーで煽り、BAMBI NAKAとAIによるスタイリッシュなダンスが会場を魅了する。宙を切り裂くような、名越のギターソロを経て「雨傘」へ。色とりどりの“光の雨”が降り注ぐような映像をバックに、ウッドベースから5弦ベースAmerican Elite Jazz Bass Vに持ち替えた鳥越が、まるで機関銃のようなベースフレーズを撃ち込んでいく。その腹に響き渡るような低音と、輪郭のはっきりした高音のコントラストはアリーナ後方でもしっかりと聴き取れた。さらにショルダー型のシンセを抱えたヒイズミが、リボンコントローラーを駆使したトリッキーなソロを弾き、この曲の疾走感を鳥越とともに引き立てていた。

1stアルバム「無罪モラトリアム」から演奏された「積木遊び」では、引きずるようなドラムスと、歪みまくったAmerican Elite Jazz Bassがヘヴィなビートを繰り出す中、椎名が打ち鳴らすチューブラベルや、カラフルなホーンセクションが楽曲を彩っていく。「神様、仏様」では、ポップな羽織を纏ったELEVENPLAY(KOHMEN、SAYA、ERISA、KAORI)が登場し、MIKIKOの振り付けによるプログレッシヴな踊りダンスでフロアを圧倒した。

バンドとオーケストラによる、流麗な映画のサウンドトラックのようなインスト「化粧直し」を挟み、ピンクのロングドレスに着替えた椎名が再びステージに戻る。温かい拍手に迎えられ美しいハープに導かれながら「カーネーション」を披露した後、ストリングスアレンジが施された「ありきたりな女」を切々と歌い上げた。サントラと言えば、今回すべての歌詞が映画の字幕のように、スクリーンに映し出されていたのも印象的だった。

ヒイズミの弾くチェンバロの音色と、名越のファズギター、みどりんのタイトなドラムがサイケデリックに響く「いろはにほへと」を経て、セカンドシングル「歌舞伎町の女王」のイントロが流れ出すと、スクリーンには、新宿歌舞伎町を思わせるネオン街が現れた。彼女の過去作をあしらった看板やネオンサインをあちこちに散りばめるなど、遊び心溢れる演出に思わずニヤリ。続くシャンソン風の「人生は夢だらけ」で、“これが人生 私の人生”、“私の自由 人生は夢だらけ”と絶唱し、ステージがまばゆい光に包まれると、一篇の映画を味わい尽くしたかのような感動が全身を貫いた。

暗転。時報が“7:00”を告げると、ステージ奥のライトから浮雲がマイクを持って登場、ひときわ大きな歓声が上がる。ポケットに手を突っ込み、細身の体をしなやかに動かしながら飄々と歌う浮雲。サビでマイクを向けられた鳥越が、“埼玉は夜の七時!”とシャウトし笑いを誘うなど、和やかなムードに包まれていた。

いよいよライヴも終盤へ。80年代にタレントの伊藤さやかが歌ったアニメ「さすがの猿飛」の主題歌「恋の呪文はスキトキメキトキス」のキュートなカヴァーと「ちちんぷいぷい」のメドレーを披露し、宮本浩次(エレファントカシマシ)の客演が話題になった最新配信シングル「獣ゆく細道」へ。スクリーンいっぱいに宮本が唄うアップが映し出され、本人は不在ながら迫力たっぷりの“ヴァーチャルデュエット”にフロアは湧き上がる。そして、「目抜き通り」では何と、Mummy-D、浮雲に続いてのサプライズゲストとなるトータス松本が登場。“松本さんが来てくださいましたー!”と思わず椎名も興奮気味にシャウトし、この日一番の盛り上がりを見せた。

「今日は“いい夫婦の日”、おめでとう。確かaikoのお誕生日かな。aikoは“いい夫婦の日”生まれで、私は“いい二号の日”(11/25)。今日はおめでたい日にお目にかかれて嬉しいです」と、MCで笑いを取った後、「ジユーダム」を演奏して本編を締めくくり、アンコールでは「はいはい」と「夢のあと」を披露。「はいはい」で鳥越は、American Elite Jazz Bassでドライかつ低音の引き締まった音色を鳴り響かせた。

「必ずしも沢山の方々に聴いていただきたいと思ってきたわけではないので、20年も経ってこんなに沢山きてくださると思わなくて。感無量です。どうもありがとう」 最後にそう挨拶した椎名林檎。美しい映像と表情豊かな楽曲、バンド演奏にオーケストラ、さらにはダンス、照明と、すべてが有機的に絡み合った“総合芸術”はさながらミュージカル映画のような、あるいは万国博覧会のようなステージを創り上げ、17,000人を魅了してみせたのだった。


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(Photo by 太田好治)


セットリスト
1. sound & vivision
2. 本能
3. 流行
4. 雨傘
5. 日和姫
6. APPLE
7. マ・シェリ
8. 積木遊び
9. 個人授業
10. どん底まで
11. 神様、仏様
12. 化粧直し
13. カーネーション
14. ありきたりな女
15. いろはにほへと
16. 歌舞伎町の女王
17. 人生は夢だらけ
18. 東京は夜の七時
19. 長く短い祭
20. 旬
21. 恋の呪文はスキトキメキトキス
22. ちちんぷいぷい
23. 獣ゆく細道
24. 目抜き通り
25. ジユーダム

ENCORE 1. はいはい
2. 夢のあと


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