#FenderNews / Why We Play vol.12

Why We Play vol.12:小沼ようすけ & 井上銘【前編】

音楽と人、そして楽器。さまざまな表現手段の中から、なぜギターを選んだのか? そんな素朴な疑問にフォーカスを当て、プレイヤーの内面に深く迫る連載企画「Why We Play」。今回は、11月3日(土)湘南T-SITEにて行われるJazzmaster誕生60周年を記念して行われるイベント「FENDER JAZZ CLUB」での共演が決まっている小沼ようすけと井上銘が登場。現在の日本ジャズシーンを牽引するギタリストである小沼ようすけと、若手実力派ジャズギタリストの井上銘が語り合うジャズギターの魅力とは?

Why We Play
自分がグッとくる音って何だろうなって考えた時、人間らしい瞬間なんです(井上)
音で会話して盛り上がって、想像したことのない世界に行った時のあの美しい世界は格別(小沼)
 

―  まずは、お2人のギターを始めたきっかけ、そしてジャズギタリストになった過程を教えてください。

井上銘(以下:井上) ギターを始めたきっかけはロックです。レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリックス、クリームとかが好きだったんです。中学生だった僕は音楽がどうこうより、ただギターが大好きでそうやって洋楽を聴いていくと、どんどんギターソロが長い音楽が好きになっていったんです。ツェッペリンとかってライヴ盤だと20分くらいインストのパートがあったりして、“やっぱり音楽ってこれでしょ”って中学の時に思ったんです。そんな時に、マイク・スターンのライヴを観に行ったら、全部楽器のソロだったので“これじゃん!”ってなりました。今は歌が入っている音楽も大好きですけど、中学生の時は楽器だけの音楽にのめり込んで、それで“ジャズって俺に合ってるかも!”って感じでジャズにハマっていきましたね。

小沼ようすけ(以下:小沼) 僕は高校まではロックばかりやっていて、バンドでライヴをやっていました。ただ、周りは決まったソロをコピーしている中で、僕はコード進行にちょっとこの音を加えてみようとか、自由に弾くのが好きだったんです。高校を出て、地元の秋田から東京に出てきて音楽学校に2年間通ったんですけど、ジャズの授業で最初にジャズブルースをやったんです。そしたら、今まで弾いてきたロックとは違ってギターソロもうまく弾けなくて。それで、“このジャズっていうリズムは何なのか?”って、その時に初めてジャズに対する興味が湧いたんです。その年の夏休み、実家に帰省した時に父親がカーステレオでジョージ・ベンソンをかけて、“あ、これはどうやってソロを弾いたらいいかわからないジャズブルースだ”と思って聴いたら、クリーントーンなのにエネルギッシュで、グルーヴしまくっていて熱いわけです。で、この自由さと熱さとたまに出てくるちょっと変な音階、これがジャズブルースか!ってことに気づいて。父親に“もう1回今の曲を聴かせて”っていうのを何度も車の中でお願いして。最終的にそのCDを東京まで持って帰ったほどです(笑)。そこから僕のジャズ人生が始まりました。

―  ロックギタリストの場合は、大概ロックギターヒーローのコピーから自分のスタイルを確立していくと思うのですが、ジャズギタリストの場合は即興も多いわけですが、どうやって自分のスタイルを作っていくんですか?

井上 そのことは、ジャズを志したものにとって永遠の課題だと思っています。いくつか段階があると思うんですけど、初期段階、つまりジャズを勉強し始めた時っていうのはコピーです。僕はパット・マルティーノというギタリストがすごく好きだったので、彼をはじめいろんなギタリストをとにかくコピーしました。で、僕の経験で言うと、100回コピーしたとしたら5%くらいが自分の中でしっくりきて、3カ月後くらいにはアドリブでスッと出てくる感じです。それを繰り返して、プロになったぐらいから自分自身の音を考える必要が生まれた感じです。で、つい最近思っているのは、本当に自分がグッとくる音って何だろうなって考えた時、人間らしい瞬間なんです。例えばちょっと音が途切れちゃったとか、そういうほうがセクシーだなって思うようになってきたんです。自分がコンプレックスだと思っていたようなことが、むしろ自分らしさなのかなって思っています。

小沼 いい話だね。僕も銘くんが言っていたように、最初は本当にひたすらコピーしていました。それで、20代の頃はセッションで弾いていると“今、俺の中に誰かが入ってきた”みたいな感覚だったんです。それがだんだん、自分自身が弾いている姿、本当の自分は何かっていうところにぶち当たってすごく悩んだんです。でも、4枚目のアルバム「The Three Primary Colors」をリチャード・ボナとレコーディングした時に、ボナが僕のギターをピックを使わずにすごくいい感じで弾いていて。その音を聴いて、こういう音が自分らしい気がすると思って。で、レコーディングの2日目ぐらいに、指で弾いてプレイバックを聴いたら、ありのままの自分の音が聴こえてきて。銘くんが言ったように、それまでは自分の繊細な音がコンプレックスだったんですけど、それで全部受け入れられて。そこから今のフィンガーピッキングのスタイルです。

井上 すごいですよね。レコーディングで急にスタイルを変えるっていう(笑)。すごく勇気がいるというか、カッコいいですよ。

小沼 僕こそ、最初に銘くんのプレイを見た時は驚いたよ。まだ若い段階で自分の声を持っているなって。“誰か”っぽくなくて完全に銘くんの音だなって。どこで何を弾いても銘くんの音だってわかるもんね。

井上 ようすけさんって、ライヴで登場した時点で空間が“小沼ようすけ空間”になるんですよね。それがやっぱりアーティストって感じがするなと思っていて。ようすけさんの音を聴いている時も、ジャズを聴いているというよりも、小沼ようすけの世界を聴いているっていう気持ちにさせてくれるんです。そうなるのが一番ジャズじゃないかなって僕は思っていて。

―  どういうことですか?

井上 ジャズという音楽って、一般的に認識されている枠組みがあると思うんですけど、本来ジャズってそうではないと思っていて。例えば、ジャズの創始者であるチャーリー・パーカーがビバップを始めた時って、枠組みがない音楽を提示して、時間が経って周りの人が枠組みを作っているだけの話だと思うんです。小沼さんはそういう意味で、本当に“小沼さんの音楽”っていうギターのスタイルも音も、小沼さんの世界観をはっきりと持っている。そういう“その人らしさ”とか、未知のものができることがジャズだと思うんです。トータルの意味で、小沼さんは本当にジャズだと思います。

小沼 嬉しいですね。

井上 ただ、枠組みを飛び出すためにも、枠組みの中のことは自分なりにすごくしっかり考えていかなきゃいけないんです。

小沼 そうね。トラディショナルを知ることも大事だよね。だから枠の外に出るためには時間がかかる。

井上 時間がかかりますよね(笑)。

―  ジャズってやっぱり大変なんですか?

小沼 “ジャズってよく聴けば簡単だよ”っていう言葉をよく聞くし、実際にスッと入ってくる人もいるとは思うんですけど、僕なりのジャズはどういうものかと言えば、正直、演奏に関しては簡単なものではないですよ。ある程度段階があって、最初はどうやってソロを弾いたらいいのかとか、コード進行をくぐり抜ける喜びとか、そういう段階をひとつずつ自分の知識としてクリアしていく楽しさがまずはあります。そして、だんだんと音で流暢に喋れるようになってくると、今度は音で会話ができるんですよね。その音で会話して盛り上がって、自分が想像したことのない世界に行った時のあの美しい世界は格別です。もちろん、そこに行くのは簡単じゃないです。

―  ええ。

小沼 あと、即興でセッションしていると自分の中でどんどんどんどんエネルギーが発生されていくんです。だって、即興でセッションしているとどんな演奏になるか誰もわからないですよね。どの世界に辿り着くのか誰もわからない。曲のゴールがあって、そこをどういう順路で旅するのか。遠回りをするのか、あるいは、もうそんなところに行ったの?ってなるかは始まるまでわからない。そこにはやっぱりすごいエネルギーがあって。そのエネルギーは簡単に習得できるものじゃないけど、そのエネルギーを感じることができたらジャズの虜になっちゃいますね。

井上 いろんな人とライヴをやるので、初対面の人といきなり本番ってこともよくあるんです。最初はまだお互い人見知りしていても、ライヴが終わったら2〜3回飲みに行ったんじゃないかってぐらいの関係になるんですよ。それが不思議ですよね(笑)。

小沼 だから嘘をつけないしね。そういう音楽がジャズなんです。そのジャズの魅力を伝えるイベントを11月3日に湘南T-SITEでやります。演奏にはフェンダーのJazzmasterを使います。ぜひ観に来て欲しいです。

› 後編に続く

 

小沼ようすけ&井上銘が所有する Jazzmaster®

Why We Play

Limited Edition 60th Anniversary Classic Jazzmaster®
「7月から使用しています。意外とフロントピックアップの音が好きで、独特の抜け方をするんです。Jazzmasterはクセの強い楽器の印象だったんですけど、どんなシチュエーションにもフィットするし、ギター本体(手元)でかなり音の選択肢を作れる楽器だと思います」
› Limited Edition 60th Anniversary Classic Jazzmaster®製品ページ

Limited Edition 60th Anniversary '58 Jazzmaster®
「純粋にこのフレット幅とか高音のキレイさ、そしてハイポジション時の弾きやすさに驚きました。あとは音の太さ。Jazzmasterは誕生60周年ということですけど、何かまた新しいワールドが始まる予感がします。それくらい未知のものだし、そこがすごく魅力的ですね」

PROFILE


小沼ようすけ
14歳でギターを始める。2001年にSONY MUSICよりデビュー、10年間在籍。現在までにSONY他から10枚のリーダー作品をリリース。2004年、リチャード・ボナ(Ba)、アリ・ホニッグ(Dr)をフィーチャーしたトリオアルバム「Three Primary Colors」をニューヨークで録音。2010年、フレンチカリビアンのミュージシャンたちとレコーディングした「Jam Ka」発売。グアドループの民族音楽グオッカの太鼓(ka)がフィーチャーされたこの作品で独自の世界感を展開。2016年、Flyway LABELを設立。第一弾作品として、パリで録音された「Jam Ka」の続編 「Jam Ka Deux」をリリース。ジャズをベースにさまざまな国を旅して得た影響、経験を音楽に採り入れながら、世界を繋ぐ創作活動を続けるギタリスト。エレキギターの他にナイロン弦アコースティックギターも使用する。
› Website:http://www.YosukeOnuma.com


井上銘
ギタリスト、コンポーザー
1991年5月14日生まれ。神奈川県川崎市出身。15才の頃にギターをはじめ、高校在学中にプロキャリアをスタート。2011年10月EMI Music Japanよりメジャーデビューアルバム「ファースト・トレイン」を発表。2012年1月に同作で「NISSAN PRESENTS JAZZ JAPAN AWARD 2011」アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュースター部門)を受賞。2012年9月よりフルスカラシップ生として米バークリー音楽大学に留学。退学後、NYに滞在しライブ活動の後、2014年6月に帰国。2013年11月にUniversal Musicより2ndアルバム「ウェイティング・フォー・サンライズ」を発売。2016年4月、渡辺香津美氏のギター生活45周年のアルバム「Guitar Is Beautiful KW45」に参加。同年4月、同年代の精鋭ミュージシャン達とのPOPSユニット”CRCK/LCKS(クラックラックス)”でデビューアルバム「CRCK/LCKS」(クラックラックス)をリリース。6月にはブルーノート東京で世界最高峰のジャズギタリスト Kurt Rosenwinkel(カート・ローゼンウィンケル)と共演。2017年、自身の新しいユニット、MAY INOUE STEREO CHAMP (類家心平tp、渡辺翔太keys,pf、山本連b、福森康ds) を結成。同年6月21日、ReBorn Woodより同メンバーと創り上げた自身最大の意欲作であるサードアルバム「STEREO CHAMP」を発売。2018年4月には”MAY INOUE STEREO CHAMP”として初のブルーノート東京公演をソールドアウトさせ、大成功を収めた。また、今秋には新作のリリースが予定されている。
› Website:https://ameblo.jp/may-inoue/