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My Original Playlist | GRAPEVINE 田中和将

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ルーツミュージックに精通しながら、常にオルタナティブな音楽を作り続ける日本ロック界の良心、GRAPEVINEの田中和将。そんな田中の音楽的なルーツと音楽哲学が垣間見えるプレイリスト8曲を紹介。ブルースの巨人、マディ・ウォーターズから田中が敬愛するオルタナバンドのウィルコまで、その魅力とともに、田中の音楽へのこだわりを語ってもらう。この曲と田中の音楽哲学を知るだけでも、音楽が10倍楽しくなる!


温故知新的にルーツを理解した上で鳴っている音楽が好きなんです

 

―  この企画、自身が影響を受けた楽曲を、50年代、60年代、70年代というロックの黎明期からと現在からでピックアップしてもらうのですが、そもそも田中さんがロック黎明期の楽曲が大好きな理由は何なんでしょうか?

田中和将(以下:田中)   僕に関して言えば、音楽的なことだけではなく、ロック黎明期が持つムードみたいなものに憧れたんやと思うんです。そもそも僕がロックを聴き始めたのが、兄の影響でRCサクセションからなんですよ。もちろんリアルタイムでは全然ないんですが、その時点ですでにヴィンテージの音楽を聴いてるような、ちょっと人と違う音楽を聴いているような優越感を感じたわけです。で、リアルタイムの音楽がしゃらくせぇっていう、ちょっとカッコつけた感じになってしまって、そのまま自然にローリング・ストーンズ、ザ・ビートルズと…クラシックロックというかルーツミュージックへの旅が始まってしまったんです。

―  ルーツミュージックの何が田中さんの琴線に触れたんでしょうか?

田中   僕の周りでみんなが聴いていた音楽よりも、ドシっとしたものを感じてましたね。それは音質も含めてなんですけど、自分でも“これは何なんやろ?”ってなるわけで、その疑問に対する答え合わせじゃないんですけど、ブルースに行き着いた時に“あ、これが大元かな?”って気はしましたね。

―  その“ドッシリの大元”として、今回選んでいただいたのがマディ・ウォーターズの「マニッシュ・ボーイ」。

田中   この曲がすべての根源というわけではもちろんないんですよ。でも、選曲するにあたって、何かの枠を設けないと選曲ができないので、2つキーワードを設定しました。ひとつが、ブルースに寄せたロックです。そうなると、60年代のローリング・ストーンズを入れるのが必須になる。あともう1つが、僕も使っているフェンダーのギターを弾いている人。黎明期、まずは50年代から1曲を選ぶ時に、次の60年代でローリング・ストーンズを選ぶためにはマディを選ばざるを得なかったんです。マディは実をいうと、60年代のほうが活躍しているんですけど、50年代からやってはるんで、まぁそこはいいかなぁと(笑)。

―  「マニッシュ・ボーイ」にした理由は?

田中   マディはこの曲でシングル・デビューしているんです。マディの中で特別この曲が好きってわけでもないですけど、かなりドッシリしている曲ですし、あのリフは完全にマディですもんね。



―  そして、2曲目にして早くも真打登場で、ローリング・ストーンズの「ミッドナイト・ランブラー」!

田中   この曲が収録されている『レット・イット・ブリード』はロックの定番と言っていい本当に素晴らしいアルバムです。その中でも「ミッドナイト・ランブラー」は非常にブルース色が強い上に、ストーンズにしては展開がプログレッシヴで、僕はかなり影響を受けています。



―  選曲全体を見渡すと、今回ピックアップしてくださった曲を過去から現在へと辿って行くと、GRAPEVINEに辿り着ける感じがしますし、逆に言えばGRAPEVINEを起点に古いほうへ紐解いていくと、その源流としてマディ・ウォーターズまで辿り着ける、そういう道標となる選曲だなぁと。

田中   ありがとうございます。いつも思うことなんですけど、温故知新じゃないですけど、ルーツを理解した上で鳴っている音楽が好きなんです。いわゆる邦楽しか聴いてこなかったJ-ROCKみたいな曲って、それはそれで面白いし、曲もよくできているんでしょうけど、僕個人としては魅力を感じられないんですよ。僕の中では、ロックというものは、脈々と通ずる何かがあってこそだと常々思っていて、そういうロックのピープルツリーのどこかに自分もいたいなぁと思っています。J-ROCKってロックのピープルツリーと離れたところで存在しているんですけど、僕はあくまでも、ロックの源流というか、本流のほうにいたい。

―  その源流の今にある音楽として挙げてくださったのが、ウィルコとザ・ホワイト・ストライプスとベック。特にウィルコに関して田中さんは大ファンだと公言してますよね。

田中   ウィルコはめちゃくちゃ好きですね。珍しくGRAPEVINEのメンバー全員の意見が一致するバンドで、全員でライヴを観に行くほどです(笑)。

―  ウィルコは音楽的にも本当にたくさんの要素を含んだサウンドですし…。

田中   オルタナカントリーで出てきたぐらいですので、カントリーの要素もあるし、ブルースの要素もあるし、かと思えば歌ものとしても凄く良かったりするんですけど、単なるいい曲だとか、クラシカルだとか、オーセンティックだとかじゃないんです。そこに、今しかできないオルタナティブなものが入っているんです。しかもそれをちゃんと生演奏、生バンドでやってるわけです。そこにとてつもなくシンパシーを抱きますね。



―  GRAPEVINEは日本のウィルコだと言う評価を耳にします。そのサウンドには多くのルーツミュージックが含まれながら、それでいて今しかできない音を奏でている。だから、その音楽を聴いていると、自然とルーツミュージックをDIGしたくなる。つまり、過去の素晴らしい音楽たちのライブラリーへの襖が開いているような音楽だということです。実際にGRAPEVINEは、曲を作る時に自分のルーツミュージックのライブラリーを引っ張ってくるような感覚はありますか?

田中   ありますね。結局、曲を作る原動力で言えば、○○みたいな曲を作ろうっていうのはありますからね。

―  なるほど。そうなると、新しくできた曲そのものを楽しむのはもちろんですけど、もうひとつの楽しみ方としては、GRAPEVINEはどういう要素でこの曲を作ったんだろう?みたいな、襖を開けていくような作業でGRAPEVINEの音楽を楽しんでもらうのもありですか?

田中   それは全然ありなんですけど、リスナーはなかなか襖を開けよらんのですよねぇ(笑)。結局、僕がこのリストでウィルコを挙げているのは、ルーツミュージックの総合的な意味合いなわけで、そこには踏まえてもらわなければいけないものがいっぱいあるんです。その代表として、しかも現代もやっているバンドとしてウィルコを挙げてるんですけど、今のリスナーの多くは頑張ってもウィルコまでしか聴かないんですよね。

―  それは本当にもったいないです。ウィルコは襖開けバンドの最高峰のひとつですので、襖を開けないと魅力半減とでも言いますか…。

田中   そうなんです。だからウィルコを聴いたんであれば、さらに襖を開けてほしいんですけどね…。

―  個人的にはその襖の数が多いほうが、音楽としては豊かなんじゃないかなぁと思うほどで。

田中   僕からは“豊か”とかそんな偉そうなことは言えないですけど、“プロ野球を10倍楽しむ方法”じゃないですが、より音楽を楽しめるとは思うんですよね。

―  確かに。でも、ルーツだけを知っていればいいってわけでもないじゃないですか、音楽って。

田中   そうなんです。古い音楽も大好きでありながら現代のものも聴いているから、ライブラリーの蓄積が可能なわけです。例えば60年代の人って、60年代までの音楽に影響を受けてやってるわけですけど、僕らはその先の音楽も知ってるからそこから得たものも活かせるんですね。

―  それこそがGRAPEVINEの真骨頂だとも言えると思いますし。

田中   僕自身のことで言えば、ルーツミュージックとのブリッジ、架け橋になるべきだなと感じています。さっきも言ったように、脈々と通じる何かを持っている音楽に魅力を感じた人間なんで。じゃあその橋を作る時に、何をするのがGRAPEVINE流のモダン、今なのか。

―  ええ。そこを最後に聞かせてください。

田中   スッとお茶の間に入って行くものを作るのがセオリーなのかもしれないですけど、それは全然ないですね。ちょっと気合い入れてかかってこんと理解できないような音楽をやろうとしてます。それが果たしてモダンかどうかは知りませんが(笑)。


【GRAPEVINE 田中和将のMy Original Playlist】


  • 1.Mannish boy / Muddy Waters
  • 2.Green onion / Booker.T And The MG's
  • 3.Midnight rambler / The Rolling Stones
  • 4.Dazed and confused / Led Zeppelin
  • 5.Mystery dance / Elvis Costello
  • 6.Stop breaking down / The White Stripes
  • 7.Impossible germany / Wilco
  • 8.Dreams / Beck


GRAPEVINE
93年に大阪で活動開始。結成メンバーは田中和将(Vo,Gt)、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)、西原誠(Ba) 。バンド名はマーヴィン・ゲイの「I heard it through the grapevine」から借用している。自主制作したカセットテープが注目を浴びて、97年にポニーキャニオンからミニアルバム『覚醒』でデビュー。2002年に病気療養のため西原誠が脱退し、金戸覚(Ba)、高野勲(Kb)が加わる。2014年、スピードスターレコーズに移籍。デビュー20周年をむかえた2017年に最新フルアルバム『ROADSIDE PROPHET』をリリースした。
› GRAPEVINE | http://www.grapevineonline.jp/


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