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愛器「べんぞう」について|津野米咲 インタビュー【後編】

8月23日に通算4枚目となるアルバム『熱唱サマー』をリリースする赤い公園。バンドの頭脳を司るギタリスト、津野米咲のインタビュー。後編ではその愛器に迫った。

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インタビュー後編では、津野の愛器であるフェンダーギターを軸に話を聞いた。

アンサンブルの中で自在に変化する、ギターにはそういう存在でいてほしいです。
 

―  津野さんの使用ギターですが、今メインで使っているのは「カスタムショップ製のオールローズのStratocaster」ですよね?

津野米咲(以下、津野)   はい。「べんぞう」という名前です(笑)。以前は5万6千円の「フェンダージャパンStratocaster」、通称「富子」を使っていたんですけど、一昨年だったかな、前作の先行シングル「KOIKI」をレコーディングする頃にべんぞうを手に入れました。富子は高一の頃からずっと使っているのですが、暑さと寒さに弱い部分があって、そこが愛おしいと思いつつ、「そろそろもう1本必要だな」と。以降、ギターは探していたんですけど、当時はパワーのあるギターがあまり得意じゃなかったんです。でも、ファーストの頃に比べて音数もどんどん増えてきて、ギターの役割が、あろうことか「ギターらしい音」になってきてしまったんです。

―  あろうことか、ですか(笑)。

津野   はい(笑)。探し続けてようやく見つけたは、設定によっては富子の音が出せるので、そこが特に気に入って使っていますね。

―  オールローズだと、やはり音質にも影響してきますか?

津野   いわゆる通常使っている材質よりも硬いので、音もやっぱり少し硬質というか。音域のブライトな部分が強調される特徴があります。とにかく重いんですよ。最初は肩が凝って仕方なかった(笑)。今もちゃんと気合い入れていないと膝をやられてしまうので、演奏前のストレッチが欠かせません。だいぶ慣れてきましたけど。

―  オールローズの「硬さ」ってどんな感じでしょう。

津野   目の前に硬いものがあるというよりは、下の歯にガツンとくるみたいな。説明が曖昧ですね(笑)。上の歯に硬いモノが当たると「イテッ!」ってなるけど、下の歯に当たると体にまでズシンと響くじゃないですか……って、そんな経験あまりないか(笑)。ハイだけがまっすぐ伸びるだけじゃなく、下の帯域の密度もちゃんと濃いんですよ。爆音で出すと地鳴りのような音になる時があって、そこがとても気に入っています。

―  今作は、ほぼこのギターでレコーディングしたのですか?

津野   メインはべんぞうですが、富子も大活躍しています。重ねて弾いてみて、そこで改めて「あ、キャラが違う」って気づいたという……(笑)。それと今回、アコギを2本借りてきて、それをちょいちょい入れていますね。

―  ちなみに、べんぞうと富子、それぞれの音の特色がよくわかる曲はどれですか?

津野   「ほら」は、前編富子で弾いたと思います。「journey」はべんぞうでしたね。この2曲を比べてもらうと分かりやすいかも。

―  例えば「AUN」で、終始鳴っているデジタルノイズのようなチリチリとした歪みはどうやって出しているのですか?

津野   あれは、ドラムのエアーマイクをメチャクチャ歪ませているんです。その音かもしれないですね。ドラムを歪ませることによって、ギターはそんなに歪ませなくても歪んで聞こえたりするんですよ。特に赤い公園は、ベーシストがエフェクターたくさん使っているので、ギターが同じ音色でも聴こえ方が変わることがほとんどなんですよね。なので、ギターはなるべくクリーンな状態から音選びを始めるようにしています。ただ、「よし、これでギターの音も完璧」ってなったのに、「ベース、音を変えてもいいですか?」と言われる時が本当に怖い……(笑)。

―  「BEAR」は、後ろでずっとSEが鳴っていたりして。

津野   「宇宙人と交信しているみたいな音を探そうぜ」ってなって。ああいうの、大好きなんですよね(笑)。前もって入れようと思って入れている音はあまりなくて、とりあえずスタジオにいろんな楽器を用意しておいて、その時のノリで入れることが多いです。

―  「恋と嘘」のイントロで、ヘヴィなディストーション・ギターと、素朴な音色のリコーダーをユニゾンさせているのも面白いですよね。

津野   あの曲は、ギターを抜くとめちゃ可愛いくなるんです。歌詞は結構シリアスなことを歌っていたりするので、その「象徴」として歪んだギターが入っている。「歌詞にとって必要な音」という考え方で、フレーズを重ねることも多いですね。

―  「勇敢なこども」の最初の部分は、4人で一緒に歌っているんですよね。歌詞の意味合いも含め、この曲がアルバムの最後に来ているというのは、これからの赤い公園の展開を示唆しているようにも取れます。

津野   そうですね。

―  佐藤さん(ヴォーカルの佐藤千明)が抜けて、今後のことは考えていますか?

津野   うーん、「これから、こうやっていきます、絶対!」って言えたらいいんですけど……。今回の件は、悩んだり迷ったりする「余白」みたいなものが、今の自分やバンドに増えることが大事だったのかなって思います。「明るい未来に向かう1本道を、これから4人で歩き出します!」という強い決意ではなく、理想と現実のギャップを知り、その中で「自分は一体何がしたいのか?」と自問自答するというか。現実世界にある、「迷いの森」みたいなところに勇敢に入っていくイメージなのかなと思いますし、そういう曲になったと思います。

―  今の段階では、例えば津野さんが歌うとか、インストバンドになるとか、新しいヴォーカリストを迎えるとか、具体的なことはまだ特に決めていない?

津野   そうですね。でも私、バンドを始めた時は、それこそ「4人じゃないと赤い公園じゃない」って思っていたんですけど、今は、「このままバンドを続けてみたらどうなるんだろうな」っていう好奇心があって。そりゃあ現実は大変ですけど、今の私には体力もあるし、好奇心もある。だから、みなさんと同じような気持ちです。「どうなっちゃうの、赤い公園?」って、調子のいい野次馬みたいに眺めています(笑)。「どうなるんでしょうね? お手並み拝見」って、ちょっと他人事っぽいというか。それがすごく楽しい。こういう時、すごく負けず嫌いな自分を知っているので、間違いなく面白いことになるだろうなと思っています。

―  じゃあ、そんなに大きい不安はない?

津野   「全く不安がない」と言えば嘘になりますけどね、彼女は素晴らしいヴォーカリストですし。ただ、彼女がいなくなることで、出来なくなることが「8」あるとしたら、4人編成では出来なかったこと、やってこなかったことっていうのが、まあ「2」くらいはあると思っていて。それをまずはやってみたいです。そこからまた存分に悩んで(笑)、次の道を探っていけたらなと。毎日、直面する選択肢に対して、「音楽」を主体に選んでいけたらいいですね。

―  ところで津野さんは、ギターを高校の時に始めたんですよね。

津野   あ、でも井上陽水さんの「傘がない」だけは、小学生の時に弾けました(笑)。なのにどうしてギターを練習してこなかったんだろうって、今になって思います。未だに弦が6本あることへの戸惑い……「どうやって使おうかなあ」っていう気持ちがあるんですよね(笑)。

―  デビューの頃と比べると、ギターに対する気持ちも変わりました?

津野   そうですね。デビューした頃は、人差し指と中指くらいしか使えなかったんですけど、最近は薬指と小指もちょっとずつ使えるようになってきました!

―  目覚ましい進歩!(笑)

津野   「運指練習」というやつをやるようになった成果です。あと、どのフレットを押さえると何の音が出るのか全く分からなかったのが(笑)、大体わかってきたかな。

―  そういう話を聞くといつも不思議に思うのですが、あれだけ弾けるのに、そんなことってあるんですか?

津野   (笑)。そうおっしゃっていただけるのが、未だによく分からないんです。自分ではすごく楽しく弾いてはいるんですけどね。もしかしたら、ギターフレーズを考えているというのとは違うのかも。だから、ギタリストの人と話していると、大抵は異様な雰囲気になってしまう。

―  (笑)。

津野   以前SUGIZOさんが、私のギターを褒めてくださったことがあって。それで、SUGIZOさんのギターを注意して聴いてみたことがあるんですけど、もうギターを使い尽くしている感が半端ないんですよね。で、私は全然使いきれていないんですけど、他のギタリストが使ってないところを使ってはいるんだなっていうことに気がついて。SUGIZO様が、SUGIZO様の美学を通して私のギターを褒めて下さった意味も、何となく理解できたんです。そこに気づけたから、今後もっと可動域を広げていきたいなと思いました。そうそう、この間KenKenが、弾きながらペグをヒュン!って回してまた戻すっていうのをやっていて。あれ、いつか出来るようになりたいというのが、当面の目標ですね(笑)。

―  家ではいつも、ギターは手元に置いているのですか?

津野   はい。ずっと弦を張り替えてない自宅用のギターがあって(笑)。常に抱えて、テレビを見ながら、流れてきた曲に参加したりしています。

―  ありがとうございます。では最後に、フェンダーギターを愛用している読者へ、ギターの楽しさ、オススメの練習法をお願いします。

津野   バンドスコアを買うと、よく「ギター1」「ギター2」「ギター3」ってなっていますよね。そのうちのどれか一つのパートだけ弾いても、アンサンブルとして成り立たないじゃないですか。なので、「ギター1」「ギター2」「ギター3」の、必要なエッセンスをそれぞれチョイスして、ミックスして弾いてみるっていうのを私はずっとやってきて、今でもそれが一番役に立っている気がします。リードギターとかバッキングギターとか、あらかじめギターの役割を決めてしまわない方がいいのかなと。ベースを補う時もあれば、存在感があるようでない時もある。でも、「ここぞ」というところでスポットライトが当たる時もあって。アンサンブルの中で自在に変化する、ギターにはそういう存在でいてほしいですね。

› 赤い公園ニューアルバム『熱唱サマー』8月23日発売!

› 前編はこちら

 
 
maisa-tsuno

津野がメインで使用するカスタムショップ製オールローズのストラトキャスター。


津野米咲
高校の軽音楽部の先輩後輩として佐藤千明(Vo)、藤本ひかり(Ba)、歌川菜穂(Dr)の3名によるコピーバンドにサポートギターとして加入。そのまま現在に至る。 2010 年 1 月、赤い公園を結成。 2012年にメジャーデビュー。2013年に1stアルバム『公園デビュー』、2014年に2ndアルバム『猛烈リトミック』、2016年3月に3rdアルバム『純情ランドセル』を発表。ガールズバンドらしからぬ圧倒的な演奏力と存在感から、ブレイクが期待されるバンドとして高い評価を受ける。また、作詞・作曲・プロデュースを務める津野の才能がアーティストやクリエイターから注目を集めており、SMAP「Joy!!」の作詞・作曲、モーニング娘。’16「泡沫サタデーナイト!」等の楽曲提供を行うなど、活動の幅を広げている。2017年には2月、4月、6月と3連続でシングルをリリースした後、約1年半ぶりの最新アルバム『熱唱サマー』を完成させた。8月27日にはZepp DiverCity TOKYOにて単独ライブ「熱唱祭り」が開催される。

› 赤い公園:https://akaiko-en.com/